第10回講座「孤独は社会問題」質問への回答

桜蔭塾第10回講座の多賀幹子氏から、受講者の質問へのご回答を頂きました。

【お手紙より】

先日の講演では、お忙しいなか時間を取って参加いただき、ありがとうございました。

講演の「印象」や「感想」もたくさんいただき、一つ一つ読ませていただきましたが、さすがというか、視線がいずれも鋭いのに実に温かい。励まして下さるものも多く、とてもありがたかったです。

すっかり遅くなりましたが、「ご質問」に応えたいと思います。ただ、かなり難題も多く、私の力では到底応えきれないものもありました。深くお詫び申し上げます。

【質問と回答】

Q1 女性はなんとか仲間づくりや出掛ける先などをみつける事ができそうですが、高齢者男性はそういったことが苦手なような気がします。もし良い手のさしのべ方、成功例があればお教えください。

 ご質問をされた方は、気持ちの優しい方ですね。とかく居場所を見つけられない男性を何とかして差し上げたい。それには、イギリスのメンズ・シェッドもそうですが、何かグループに入り、仲間とともに手や体を動かすようなことをお勧めします。スポーツ、音楽(楽器など)、囲碁将棋、ボランティアなどです。夫もギタークラブやスペイン語クラブに入っていました。それは楽しそうに欠かさず通っていました。ギタークラブでは時折老人ホームを訪問して演奏し喜ばれていました。

 

Q2  私は20代です。コロナで同年代の友人たちは自分も含めて何処となく孤独に生きている気がします。若者(特に女性)の孤独との向き合い方について、何かお考えやご助言がありましたら、教えてください。

 学校の講義もオンラインばかり、楽しい学校行事なども中止が続く。アルバイトもなくなってしまった。遠い実家にも帰りにくい。こうした状況が長く続いています。20代ほどの女性は孤独を感じるでしょう。よくわかります。楽しかるべき青春時代なのに、と嘆きたくなる。長く続くコロナには本当にうんざりですね。しかしあなた一人だけに降りかかったことではありません。世界の20代が向き合っているのです。皆さん同じ苦しみを味わっている。しかし今は、私の時代にはなかったいくつもの優れたツールを持っている。世界の人とオンラインでつながれる。便利な携帯も手にしています。ここはひとつ、無いものを嘆くより、この状況にいち早く適応してしまうことです。この中で何ができるかを考える。そこにあなたらしさが発揮されます。また、あなたよりずっと追い詰められている人たちがたくさんいます。ボランティアなどを少しずつなさってみてはどうでしょう。頭の中で考える孤独ではなく、現実の孤独に日々さいなまれている人がいます。子ども食堂に何か運んでもいいし、料理などを手伝ってもいい。子どもの相手も喜ばれます。先日、買い物の帰りに私は手押し車を押す高齢女性と一緒に踏切を渡りました。小さなタイヤが線路の溝にはまりそうだったからです。ただ声をかけて横を一緒に歩いただけですが、高齢女性はとても喜んで、繰り返しお礼を言ってくれました。私はその時、孤独ではありませんでした。

 

Q3 メンズシェルトの場所は公の施設なのでしょうか、個人の家でしょうか?

メンズ・シェッドは公民館などを借りたり、あるいは仲間の庭の納屋などを使用したりします。地域の事情に合わせて、それぞれ工夫しています。

 

Q4 訪問介護の仕事をしています。日本では、介護の仕事中にお話しをしていますが、サービスの時間が限られています。英国のAGEUKはとてもいいとおもいます。ボランティア活動なので、ルールなどもなくお友達のように親しく付き合うようになるのでしょうか?

質問者は、訪問介護のお仕事をなさっておられる。コロナ禍でさぞ気を遣い、大変でしょう。AGEUKは基本的にボランティアが高齢者の相手をします。お友達のように仲良くなる例は多いです。ただ、いつでもAGEUKが必要なら介入できるようになっています。安全には特に気を使っています。何かあればAGEUKが助けますので、シニアもボランティアも安心しています。

 

Q5 イギリスの大臣ポストは無くなったとのことですが、それらの活動は継続されているのでしょうか?

孤独になることを意識的に避けないといけない、孤独な人は引っ張り出さないといけないという考え方はある程度浸透したとみて閉庁しました。一応の役目は終わったとの捉え方です。イギリスはプラクティカルな国で、漫然と置いておくことはしないのです。もちろん孤独対策に力を入れる慈善団体はそのまま継続しています。孤独大臣がいようといまいと、慈善団体は目的に沿って活動を続けます。

 

Q6  日本では、高齢者の一人暮らしが増え、認知症も増えています。孤独対策を始めたイギリスでは認知症は少なくなったのでしょうか?

孤独対策を始めたことと、認知症患者の数の因果関係は特に発表されていません。認知症発症には様々な要素があり、孤独対策の効果があったかどうかは、よくわからないように思います。何か発表があれば、またお知らせしたいと思います。

 

Q7 イギリスではMensShedで作ったDIY作品は、実際に販売されて収入源になるのでしょうか?

作品は基本的に販売しません。出来上がったものは自分の家で使用してもいいし、コミュニティーの学校や公園や病院に寄付してもいいからです。それが基本です。ただ、絶対に販売してはいけないということではありません。

 

Q8 日本では、高齢者の雇用延長や女性の雇用に力を入れています。そうなると、ますます地域を支える人が減ってしまうのですが、日本の地域力をあげるには、どうしたらよいでしょうか?

なるほど、そうかもしれません。ただ、これからは働いているから地域には何もできない、とは言えなくなるのではないでしょうか。週末や休日、祝日には地域で何かやってほしい。AGEUKの一週間に30分の電話相手のようなものはないでしょうか。それは、仕事にもよいヒントを与えるかもしれません。

 

Q9 日本で、孤独に対してすぐできることはありますか?情報を収集する?発信する?

日本政府は孤独対策大臣を設置しました。私はかなりの人に聞いてみましたが、その存在を知らない人も少なくなく、発信力が弱いことが実感されます。大臣も頑張っておられますが、新聞などへの広告、テレビのCM、SNSの活用などは目に入って来ません。孤独対策ですぐできることは、やはり自分から始めることですね。待っていてもダメです。自分よりもっと孤独と思われる人に手を差し伸べてみたらどうでしょう。といっても大きなことではなく、近所の方にあいさつするとか、そこからでしょうか。

 

Q10 英国でボランティア活動が盛んなのは、宗教的(キリスト教)な影響が大きいように思いますが、日本で同じように広げることができますか?

そうだと思います。間違いないです。ただ、ヨーロッパなどにはキリスト教の国が多くあります。その中でもイギリスが特に慈善に関して高い関心を寄せています。これはなぜなのか。イギリスは世界で最初に産業革命を行った国ですが、高い工場の煙突掃除に体のまだ小さい子供を使い、多くの悲惨な事故を招きました。それで世界で初めて児童虐待防止団体が出来たそうです。イギリスはいまだに階級社会ですが、貴族の女性などが、そうした慈善活動を担いました。ボランティアにはイギリスの歴史が複雑に絡んでいるようです。ご興味がありましたら、岩波新書「チャリティの帝国」(金澤周作)をお読みください。よく説明してあります。
 

Q11 「やさしい社会」を掲げているイギリスですが、日本では公園のベンチが、浮浪者などに占領されないように、ベンチに1人1人が座るための仕切りがつけられています。日本が「やさしい社会」に向かうために必要なことは何でしょうか?

難しいですね。日本はいつからか、自己責任の国になってしまい、やさしい社会に向かって進んでいません。崩壊した家庭も少なくないように思いますが、家庭に代わるセイフティーネットが出来ていない。そうなると、他者に期待するよりまず自分から、ということになるでしょうか。時間は自分に使いたい、面倒だ、など、いろいろとあるでしょうが、そこを乗り越えて、自分にできることからやりたいです。

 

Q12 多賀様の執筆活動を支えているパワーのもとはなんでしょうか?

私の執筆活動を支えるものは、何でしょうか。考えたことがありませんでした。書くことが好きだから、ただそれだけだと思います。

【お手紙より】

たくさんのご質問をいただきまして、ありがとうございました。お返事をするのが遅れましたこと、重ねてお詫び申し上げます。

桜蔭会の皆様の今後いっそうのご健勝とご活躍を祈ります。

多賀 幹子 

2022.5.1