第9回講座「家族と女性」質問への回答

桜蔭塾第9回講座の三浦徹先生から、受講者の質問へのご回答を頂きました。

【質問と回答】

Q1 離婚した場合の親権はどうなるのか。

A1 親権とは、現在日本でいう「未成年者の子どもを監護・養育し、その財産を管理し、その子どもの代理人として法律行為をする権利や義務」とします。イスラーム法で、これにあたるものは、成年に達するまでの子に対する義務として、つぎの3つがあります。第一は、子の扶養義務で、これは父の義務となります。第二は、子の後見で、財産の後見と婚姻締結の後見が、父の義務となります。第三は、監護(子をその家で保護し、食糧・衣類・寝床を供給し、身体を清潔に保つこと)で、これは母(ないし母の女性血族)の義務となります。

 

Q2 イスラム教において子供を育てるときの「教義」(?)あるいは「制度」でもっとも大切にされていること、また、子どもへの影響力が大きいと考えられることは何ですか。

A2 イスラーム法では、子どもの成長は、満2歳までの授乳期、7-8歳までの監護期、それ以降成人(肉体的成長が基準とされる)になるまでの保佐期に分けられています。成年に達すると自ら財産権を行使することができます。監護(身の回りの世話)は母親に、扶養や保佐は父親の義務とされます。子どもを社会的・経済的に自立できるように育てることが親の任務ということは、他の地域と同じです。

 他方、小学校くらいの年齢から、学校や親から、コーランを習い、すべての章を暗誦できるようになるとお祝いをします。その意味で、コーランやイスラームの教義は、子どもの成長に一定の影響力をもっているといえます。

 私のシリアの友人(講演で写真をみせた人たちなど)をみていると、いずれも子どもを大事にしています。他方で、子どもたちは小学生ぐらいから家業の手伝いなどをしています。また、親族(おじおばいとこなど)のつきあいが密で、子どもは、直接の親子関係だけではなく、よりひろい関係のなかで育っていきます。生活単位が核家族化し、親子の関係が絶対化しつつある現代日本と、異なる点です。

 

Q3 アフガニスタンのニュースがあまり入ってこなくなっていますが、現在のアフガニスタンの女性の現状を知ることができる媒体はありますか。

A3 アフガニスタン情勢を専門にしている研究者としては、青木健太(お茶大のグローバル協力センター講師を務めていました、現中東調査会)、登利谷正人、田中浩一郎、といった方々で、講演の最後に紹介した、中東・イスラーム研究文献DB(東洋文庫)サイトや日本中東学会サイト(下記)やGoogleで検索してみてください。

http://www.james1985.org/database/database.html

 下記は2021年12/29のCNNニュース(ウェブ)です。

(CNN) アフガニスタンで実権を握ったイスラム主義勢力タリバンは、女性が単独で遠出することを禁じる新法を制定した。陸路で45マイル(約72キロ)を超えて移動する場合、男性の親族が付き添うことを義務付けている。勧善懲悪省の報道官は同法について、女性が遭遇する危害や「騒乱」を防止する目的で制定されたとCNNに説明している。

 タリバンは8月に実権を握って以来、外国からの援助凍結解除を狙い、女性の権利に関して穏健な姿勢を示そうとしてきた。しかし公共の場で女性を見かけることはほとんどなくなった。女性の多くは中等教育に戻ることを認めらず、大学では男女の学生の間がカーテンで仕切られている。一時的とされた外出禁止命令などの規制は今も続く。ほとんどの女性は仕事に戻ることができず、公務員やテレビの娯楽番組などにかかわる仕事からは締め出されている。

Q4 新聞で、イスラム圏の問題は、基本に家父長制度、男尊女卑があり、為政者がだれに変わろうと生活は変わらないと書かれていました。何が彼らの貧しさ、難民として国を捨てざるを得ない状況をかえることができるとお思いですか。またこれは傲慢な考え方でしょうか。

A4 イスラームの教義や法のうえでは、信徒としては、男女は対等です。他方で、男性が女性を扶養する、という区別がされています。現在では、女性の大学進学者がふえ、職を持つ女性が増えています。いろいろな面で、女性の生活や社会的地位は変わってきています。

 2005年に外務省の招聘で、中東諸国の指導的女性6名がお茶大を訪問し、お茶大生と意見交換会を実施しました。このとき学生から、イスラーム世界では男尊女卑があるといわれるがどうでしょうか、と質問したところ、6名のだれもがきょとんとしていました。彼女たちは、裕福な家庭で育ち、官公庁の管理職についている人たちで、自分やアラブの国が、男尊女卑の社会だとは全く思っていなかったのです。男女「差」が大きいサウジアラビアも変わりつつ有り、日本に夫の仕事に随行してきた妻が日本の大学で学ぶというケースもあります。

 イスラーム世界や中東には、貧困や内戦といった問題を抱えている国があります。しかしそれは、主に政治や経済に原因があります。サウジアラビアなどアラビア半島の国の多くは、王政をとり、女性に対するベールの着用も他に比べて厳しく求められていますが、産油国であるため、経済的には豊かです。イスラームという宗教が、直接に、経済的貧困を引き起こしているわけではありません。日本にいる私たちにできることとしては、一方で政治の問題として大国の無用な介入をとどめること、他方で、NPOなどの第三者(機関)を通じた支援活動だと思います

Q5 出生証明とか戸籍制度とかあるのでしょうか?それにもその都度名前を変えられて載せられるのでしょうか。

A5 もちろん、出生の届け出を行います。現在では、アラブ諸国の多くは、本人の名+(父親の名)+姓(祖父の名)、で登録します。

 

Q6 主に、外から見れる制度から女性の地位を説明されたと思うのですが、実際家族の中では、母親とかおばあさんとかは尊重されているのでしょうか?例えば韓国なども結構女性が不自由に見えますが、私の知っている人たちは子供として家庭内で母親をものすごく大切にしています。また男の人は、相手は一神教の信者であればよい、しかし女の人は選択がないというのは、イスラームを増やすという点にかけて優れた制度だと思います。この考えに基き、家庭内で、男子が生まれると重用されるのでしょうか?この制度のスキームではそのように伺えます。

A6 私の交友している範囲での経験ですが、父も母も祖父母も、それぞれに尊重されています。女性の婚姻相手をムスリムに制限している理由は、女性の改宗や非ムスリムの子どもを増やさないという意図があります。それとは別に、男子がひとりは欲しいという傾向はあります。男子が生まれると、その父親は、子どもの名前をつかって、「アブ-・某」と呼ばれます、某(ムハンマド)のお父さん、という意味の通称です。