桜蔭塾 第20回講座報告
第20回桜蔭塾では、お茶の水女子大学 准教授 埋忠美沙先生をお迎えしました。初めての会場とZoomのハイブリット配信で55名が受講しました。
講演では、ご専門の歌舞伎作者、河竹黙阿弥の作品の継承と断絶について「鼠小僧」を題材にした幕末の作品「鼠小紋東君新形(ねずみこもんはるのしんかた)」を通してお話しいただきました。
当時大当たりをとったこの作品、明治期までは繰り返し上演されましたが、今はほとん
ど演じられません。初演時の役者市川小団次の芸風、型が跡を継ぐ役者(六代目菊五郎・十五代目羽左衛門)に合わず途絶えてしまっただけでなく、黙阿弥作品を「美」と「江戸情緒」で讃えた永井荷風の価値観が一般化したのも一因。対して同じく小団次初演の「十六夜清心」は美しい心中場面が現在も人気の作品です。
演者の問題だけでなく、時代の状況、観客の嗜好の変化の問題は、現代の歌舞伎の危機?につながっていると感じました。また、浮世絵で(デジタルアーカイブで世界中のものが見られるそうです)当時の演目の創造過程をより精査できる実例も見せていただき感動しました。日本近代演劇史特講を3コマ分くらい受講したような充実した時間でした。
歌舞伎に詳しくない参加者も多い中、丁寧に分かりやすく教えてくださったおかげで、歌舞伎の見方が広がり、今後も新たな視点で歌舞伎をみたくなりました。埋忠美沙先生、本当にありがとうございました。
★受講者からの感想★
・歌舞伎には全く不案内ですが、今回の講演を聞いて、とても関心を持ちました。観る機会を持ちたいと思います。
・歌舞伎は好きで、たまに観劇に行っていましたが、そのお話の作者については全く考えた事がなかったので今日の講演はとても興味深かったです。先生のお話の内容もとてもテンポが良く分かりやすく自分でも本など読んで調べてみたくなりました。また、このような機会があったら是非聴講したいと思いました。ありがとうございました。
・さまざまな要素が絡むご研究の成果を、わかりやすく整理されてお話しくださったことに感銘を受けました。ありがとうございました。
・役者に注目するばかりで、演目や作者については知識が乏しかったため、歌舞伎の見方が広がった気がいたします。大変勉強になりました。分かりやすい資料もありがとうございました。
・盛り沢山の講演をありがとうございました。興味深く、あっという間の90分でした。私は歌舞伎初心者でかつあまり世話物を観ないので、ご講演についていけるかやや不安でしたが、ご丁寧に説明してくださり理解することができました。なかなか上演されなくなってしまった作品が一体どれほどあるのだろう…と気になり切なくなり、松竹のエンタメはもちろん、国立劇場の理念も尊重され続けてほしいと切実に感じました。 興味深いお話、ありがとうございました。
・幅広い資料を駆使して、テーマを掘り下げていく過程が、とても面白かったです。 チャットが得意ではないので、講師の先生に質問しそびれたのですが、もし可能だったら、「単なる歌舞伎のファンではなく、研究者になってよかった、と思えるのはどんなときですか?」と伺ってみたかったです。
・流れるように次々をたくさんの研究内容をわかりやすく お話下さり感激しました。 たくさんの若い人に聞いてほしいです。新書やブックレットなどでもう少し中高大生にも手に取りやすい価格でテキストあったら 配りたいなと思いました。
・デジタルアーカイブによって浮世絵の研究が時系列でできること。見立てと中見があることが大変面白かったです。 子どものころから親しんでいたネズミ小僧という人物像が歌舞伎で広がっていったのが驚きでした。ぜひその演目を見てみたいです。 新作歌舞伎も数多く見ましたが古典の所作や基本があってこそ成り立っているのでどんどん若い人に親しめるようにチャレンジしてほしいです。 河竹黙阿弥のほか 役者だけでなく作者 演出 脚色 脚本などに注目してこれからも歌舞伎を見に行こうと決意しました。
・本日の講演の大きなテーマである、役者と作者の関係性が興味深かったです。作品が生まれ上演され受け継がれていくために、役者も作者もどちらも不可欠な存在であり、常に関わり合っているのだと痛感しました。
・河竹黙阿弥の演目が今に続いていることを改めて認識しました。また新たな視点で歌舞伎鑑賞してゆきたいと思います。有難うございました。
・埋忠先生のご講演のおかげで、歌舞伎という理解が難しい伝統芸能に対する関心が深まり感謝しています。